サイゼリヤ 財務分析 2024 増収増益 ROE7.8% 日本セグメント黒字化

今回は、イタリアンワイン&カフェレストラン『サイゼリヤ』を運営する株式会社サイゼリヤ(以下、サイゼリヤ)の「2024年8月期」の決算を取り上げたいと思います。

サイゼリヤの基本情報(会社名、住所、業種など)
目次

はじめに

収益力

1.サイゼリヤの収益力、即ち、稼ぐ力がどの程度あるのかがわかります。
2.具体的には、売上高や利益が増加したのか、減少したのか、その要因を把握、分析することで、サイゼリヤの収益力がわかります。

財政状態

1.サイゼリヤの財政状態、即ち、財務の健全性がわかります。
2.売上債権の貸倒れ、棚卸資産の収益性低下、資金繰り、財務安定性の状況を確認します。
3.業績が良くても財政状態に問題があれば、後に大きな損失に繋がる可能性もあるため、財政状態の分析は重要です。

キャッシュフローの状況

1.業績好調でもキャッシュ・フローを獲得できない場合、財政状態に問題がある可能性があります。
2.特に営業活動によるキャッシュ・フローの分析は重要です。

留意事項

分析では主に有価証券報告書、決算短信、決算説明資料など一般に公開された情報を用いています。
実際の投資などに際しては、ご自身のご判断でお願いします。

会計監査(大手監査法人出身(約20年)

1.上場企業の法定監査を担当(家電小売、化学、鉄道、ガス、住宅建材、銀行など)
2.政令指定都市の包括外部監査を担当

官公庁への出向

1.金融庁・証券取引等監視委員会(3年)
有価証券報告書の虚偽記載(主に粉飾決算)の刑事事件の調査、課徴金調査、開示検査
2.財務省関東財務局(2年)
有価証券報告書レビュー(※)
(※)有価証券報告書などの開示書類の、政令や会計基準への準拠性の審査

保有資格

1.公認会計士Certified Public Accountant
2.公認不正検査士Certified Fraud Examiner

サイゼリヤ 財務分析の概要

業績

2024年8月期の業績は増収増益を達成しました。
長らく赤字が続いていた日本セグメントは黒字へと転じました。
ROEは近年で最高となる7.8%に達しました。

財政状態

売上債権の回収見込み、棚卸資産の収益性、資金繰り、財務安定性に問題はなく、財政状態は健全と考えます。

キャッシュフローの状況

営業活動によるキャッシュフロープラスを維持し、増加傾向にあります。
また、現金及び現金同等物の期末残高増加しています。

業績推移 コロナ後は回復傾向

サイゼリヤの過去5年間の売上高、営業利益、当期純利益の推移表
過去5年間の業績推移

2022年8月期までは新型コロナの感染拡大の影響で赤字も経験し、業績が低迷しました。
しかし、2023年8月期になると、5類への移行に伴い業績が急速に回復し、売上高と利益で過去5年間の最高記録を記録しました。

過去5年間の収益性指標(売上高成長率、売上高営業利益率、売上高当期純利益率)の推移表
過去5年間の収益性指標の推移

収益性は全体的に上昇しています。
売上高成長率は、2022年8月期から3年連続で増加し、成長が続いています。
売上高営業利益率は3年連続で増加し、売上高当期純利益率も4年連続で増加しており、さらに上昇しています。

計算式

1.売上高成長率(2024年8月期)
=(2024年8月期売上高ー2023年8月期売上高)÷2023年8月期売上高×100%
=(2,245億円ー1,832億円)÷1,832億円×100%
=22.5%

2.営業利益率(2024年8月期)
=営業利益÷売上高×100%
=149億円÷2,245億円×100%
=6.6%

3.当期純利益率(2024年8月期)
=当期純利益÷売上高×100%
=81億円÷2,245億円×100%
=3.6%
(億円未満を四捨五入)

過去5年間のROE、その内訳である当期純利益率、総資本回転率、財務レバレッジの推移表
ROEの上昇下落の要因

2021年8月期にROEがプラスに転じ、その後上昇傾向を続け、2024年8月期には7.8%に達しました。
ROEを構成する3つの指標(当期純利益率、総資本回転率、財務レバレッジ)のうち、当期純利益率がROEと最も強く連動しています。

計算式

ROE(2024年8月期)
=親会社株主に帰属する当期純利益÷{(2024年8月期自己資本+2023年8月期自己資本)÷2}×100%
=81億円÷{(1,103億円+986億円)÷2}×100%
=7.8%
(自己資本=株主資本合計+その他の包括利益累計額合計)
(億円未満を四捨五入)

デュポンシステムに基づくROE分解式

2024年8月期は増収増益

2023年8月期、2024年8月期の売上高を比較したグラフ
2023年8月期、2024年8月期の売上高のセグメント別内訳
店舗形態別の売上高の増加要因
売上高の増加要因

売上高は、前年の1,832億円から22.5%増加して2,245億円になりました。
日本セグメントとアジアセグメントは、どちらも20%以上の増収を達成しました。
店舗形態別では、国内の既存店舗(269億円)と海外の新規店舗(95億円)の売上増加が、グループ全体の業績に大きな貢献をもたらしました。
また、オーストラリアセグメントの売上高は、連結グループ内の売上高を差し引いた後の金額であるため、小さい数値となっています。

2023年8月期、2024年8月期の営業利益を比較したグラフ
国内、海外の営業利益の増加要因の内訳
有価証券報告書の記載
販売費及び一般管理費の主な内訳記載している有価証券報告書の該当箇所
営業利益の増加要因

営業利益は、前年の72億円から105.8%増の149億円になりました。
地域別に見ると、国内およびアジア地域の両方で増加が見られました。
会社の決算説明資料によると、営業利益の増加要因には、国内労務費(給与賞与など)が23.9億円、国内設備費(減価償却費など)が32.4億円が含まれています。
しかし、有価証券報告書には、従業員の給与と賞与、減価償却費が前年に比べて増加していると記載されており、決算説明資料の記述と矛盾しているように見えます
(※1)42,376百万円→50,692百万円
(※2)11,662百万円→12,599百万円

2023年8月期、2024年8月期の当期純利益を比較したグラフ
当期純利益の増加要因の内訳、簡易連結損益計算書
当期純利益の増加要因

当期純利益(※親会社株主に帰属する当期純利益)は、前年の52億円から58.1%増加して81億円になりました。

営業外損益、特別損益、法人税等の合計に異常がなかったため、営業利益の増加に伴い、当期純利益も増加する結果となりました。

セグメント別の業績

過去5年間の日本セグメントの業績推移(売上高、利益、利益率)
日本セグメントの業績推移

売上高は引き続き増加しています。
2024年8月期は、店舗従業員の充足率向上や店舗組織の改善などの企業努力が実を結び、既存店の顧客数と客単価の増加により、増収となりました。

セグメント損益は、資源価格の高騰や円安による食材とエネルギー価格の上昇にもかかわらず、前年度の赤字から27億円の黒字に転じました

セグメント利益率も、セグメント損益が黒字になったことでプラスになりました。

セグメント利益率の計算式

セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント売上高×100%
=27億円÷1,465億円×100%
=1.9%

過去5年間のアジアセグメントの業績推移(売上高、利益、利益率)
アジアセグメントの業績推移

売上高は引き続き増加しています。
2024年8月期は、新規出店を積極的に行い、店舗数の増加により増収となりました。

セグメント利益黒字が続いています。
2024年8月期には、売上高が増加したことで利益も増え、近年で最も多い116億円を記録しました。

セグメント利益率は2022年8月期に下落したものの、その後回復し、2024年8月期には14.9%まで上昇しました。

セグメント利益率の計算式

セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント売上高×100%
=116億円÷781億円×100%
=14.9%

過去5年間の豪州セグメントの業績推移(売上高、利益、利益率)
豪州セグメントの業績推移

豪州セグメントは、主にサイゼリヤで使用する食材の製造を行っています。

売上高の大半はグループ内に対するもので、連結財務諸表作成の際に消去されるため、連結損益計算書に計上される売上高は少額です。

セグメント利益は売上高を上回る年度もありますが、豪州セグメントの特性のためか、具体的な説明は見当たりませんでした。

安全性(財政状態)の分析

過去5年間の安全性指標(売上債権回転期間、棚卸資産回転期間、流動比率、株主資本比率)の推移表
過去5年間の安全性指標の推移

売上債権回転期間は長期化する傾向にあるものの、半月未満という非常に短い期間で推移しています。
棚卸資産回転期間1ヶ月未満で安定しています。
流動比率は全年度にわたって200%を超え、一般的な100%の基準を大きく上回っています。
自己資本比率は一般的な目安である50%を超える水準を維持しています。

2023年8月期及び2024年8月期の売上債権回転期間を比較したグラフ
売上債権の回収見込み

売上債権の回収可能性については、問題はないと考えています。
売上債権回転期間が前年度の0.23ヶ月から0.29ヶ月にわずかに延びていますが、依然として1か月以内に回収可能であるためです。

売上債権回転期間の計算式

売上債権回転期間(2024年8月期)
売上債権(売掛金、テナント未収入金)×12カ月÷売上高
=54億円×12月÷2,245億円
=0.29カ月
(億円未満を四捨五入)

2023年8月期及び2024年8月期の棚卸資産回転期間を比較したグラフ
棚卸資産の収益性

棚卸資産の評価問題はないと考えます。
棚卸資産回転期間が前年度の1.75ヶ月から0.85ヶ月へやや長期化していますが、それも1か月以内という短い期間です。
売上高の増加に伴い、棚卸資産も増えていますが、特に問題はないと考えます。

棚卸資産回転期間の計算式

卸資産回転期間(2024年8月期)
棚卸資産×12カ月÷売上高
=158億円×12月÷2,245億円
=0.85カ月
(億円未満を四捨五入)

2023年8月期及び2024年8月期の流動比率を比較したグラフ
資金繰りの状況

動比率は、前年度の222.02%から300.69%へ大きく上昇しています。
一般的な目安とされる100%を大きく超える水準で推移しており、資金繰りは良好と考えます。

流動比率の計算式

流動比率(2024年8月期)
=流動資産÷流動負債×100%
=982億円÷326億円×100%
=300.69%
(億円未満を四捨五入)

2023年8月期及び2024年8月期の自己資本比率を比較したグラフ
財務安定性の状況

財務安定性は良好と考えます。
自己資本比率は、前年度の63.54%から65.61%へ上昇一般的な目安とされる50%を上回っているためです。

自己資本比率の計算式

自己資本比率(2024年8月期)
=自己資本÷負債及び資本合計×100%
=(株主資本合計+その他の包括利益累計額合計)÷負債及び資本合計×100%
=(975億円+128億円)÷1,681億円×100%
=65.61%
(億円未満を四捨五入)

キャッシュフローの分析

過去5年間の営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー、財務キャッシュフロー、現金及び現金同等物期末残高の推移表
過去5年間のキャッシュフローの推移

営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)は、プラスを継続しています。
2022年8月期から3年連続で200億円を超えています。

投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)は引き続きマイナスです。
2021年2月期には、有価証券の取得に4,420億円を支出したことが、1,113億円のマイナスの主要因でした。

フリーキャッシュフロー(フリーCF)は営業CFの増加に伴い増加しており、過去3年間は100億円以上を維持しています。

財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)は、過去3年間はマイナスでした。
これは主に借入金の返済やリース債務の返済に関連する支出が原因です。

現金及び現金同等物期末残高は、増加が継続しています。

2023年8月期及び2024年8月期の営業活動によるキャッシュ・フロー、営業キャッシュフローマージンを比較したグラフ
2024年8月期の営業活動によるキャッシュ・フローの増減要因の項目別内訳
営業CFの増加要因

営業CFは、前年の208億円のプラスから241億円へ増加ました。
増加の最大の要因は、税金等調整前当期純利益の増加です。

営業CFマージンは、前年度の11.4%から10.7%へわずかに下落しました。
営業CFの増加よりも売上高の増加の方が大きかったため、結果として営業CFマージンは低下しました。
数値は悪化しているものの、業績の拡大を考慮すれば、懸念する必要はないと考えます。

計算式

営業キャッシュフローマージン(2024年8月期)
=営業活動によるキャッシュフロー÷売上高×100%

=241億円÷2,245億円×100%
=10.7%

2023年8月期及び2024年8月期の投資活動によるキャッシュ・フローを比較したグラフ
2024年8月期の投資活動によるキャッシュ・フローの増減要因の項目別内訳
投資CFの減少要因

投資CFは、前年の59億円のマイナスから30億円減少(支出が増加)して、89億円のマイナスとなりました。
減少の主な要因は、有形固定資産の取得による支出の増加(31億円)です。

2023年8月期及び2024年8月期の財務活動によるキャッシュ・フローを比較したグラフ
2024年8月期の財務活動によるキャッシュ・フローの増減要因の項目別内訳
財務CFの減少要因

財務CFは、前年の82億円のマイナスから67億円減少(支出が増加)して、148億円のマイナスとなりました。
減少の主な要因は、長期借入金の返済による支出(125億円)です。

2023年8月期及び2024年8月期の現金及び現金同等物期末残高を比較したグラフ
現金及び現金同等物期末残高の増加要因

2024年8月期の現金及び現金同等物の期末残高は、前年度末から41億円増加して719億円でした。

現金及び現金同等物の期末残高の増加額
=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー+財務キャッシュフロー+現金及び現金同等物に係る換算差額+新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額
=241億円-89億円-148億円+33億円+4億円
=41億円
(百万円未満は四捨五入で計算)

サイゼリヤ 財務分析まとめ

業績

2024年8月期の業績は増収増益を達成しました。
長らく赤字が続いていた日本セグメントは黒字へと転じました。
ROEは近年で最高となる7.8%に達しました。

財政状態

売上債権の回収見込み、棚卸資産の収益性、資金繰り、財務安定性に問題はなく、財政状態は健全と考えます。

キャッシュフローの状況

営業活動によるキャッシュフロープラスを維持し、増加傾向にあります。
また、現金及び現金同等物の期末残高増加しています。

以上、2024年8月期のサイゼリヤの財務分析を終了させていただきます。
長い文章を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

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