東京エレクトロン 2024決算分析 業績悪化 売上減少 ROE21.8%

今回は、半導体製造装置で世界第3位の東京エレクトロン株式会社(以下、東京エレクトロン)の「2024年3月期」の決算を取り上げたいと思います。

東京エレクトロンの基本情報(会社名、住所、業種など)
目次

はじめに

収益力

1.収益力、即ち、稼ぐ力がどの程度あるのかがわかります。
2.具体的には、売上高や利益が増加したのか、減少したのか、その要因を把握、分析することで、良品計画の収益力がわかります。

財政状態

1.財政状態、即ち、財務の健全性がわかります。
2.売上債権の貸倒れ、棚卸資産の収益性低下、資金繰り、財務安定性の状況を確認します。
3.業績が良くても財政状態に問題があれば、後に大きな損失に繋がる可能性もあるため、財政状態の分析は重要です。

キャッシュフローの状況

1.業績好調でもキャッシュ・フローを獲得できない場合、財政状態に問題がある可能性があります。
2.特に営業活動によるキャッシュ・フローの分析は重要です。

留意事項

分析では主に有価証券報告書、決算短信、決算説明資料など一般に公開された情報を用いています。
実際の投資などに際しては、ご自身のご判断でお願いします。

会計監査(大手監査法人出身(約20年)

1.上場企業の法定監査を担当(家電小売、化学、鉄道、ガス、住宅建材、銀行など)
2.政令指定都市の包括外部監査を担当

官公庁への出向

1.金融庁・証券取引等監視委員会(3年)
有価証券報告書の虚偽記載(主に粉飾決算)の刑事事件の調査、課徴金調査、開示検査
2.財務省関東財務局(2年)
有価証券報告書レビュー(※)
(※)有価証券報告書などの開示書類の、政令や会計基準への準拠性の審査

保有資格

1.公認会計士Certified Public Accountant
2.公認不正検査士Certified Fraud Examiner

東京エレクトロン 決算分析の概要

業績

2024年3月期の業績は、減収減益でした。
コロナ禍による最終製品の需要急増により半導体製造装置への設備投資が短期間に集中したことへの反動です。

財政状態

売上債権の回収期間は、5年間で見ればやや長期化しています。
棚卸資産の収益性も低下、当年度は多額の棚卸資産評価損が計上されました。
資金繰り、財務安定性については問題ありません。

キャッシュフローの状況

営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)はプラス継続増加傾向です。
フリーキャッシュフローもプラスを継続、設備投資は営業CFの範囲内で行われています。

過去5年間の業績推移

過去5年間の売上高、営業利益、当期純利益の推移表
過去5年間の業績推移

2023年3月期までは増収増益を継続していましたが、2024年3月期は減収減益でした。

過去5年間の収益性指標(売上高成長率、売上高営業利益率、売上高当期純利益率)の推移表
過去5年間の収益性指標の推移

売上高成長率は4年ぶりにマイナスでした。
売上高営業利益率、売上高当期純利益率は、例年並みの水準を維持しています。

計算式

1.売上高成長率(2024年3月期)
=(2024年3月期売上高ー2023年3月期売上高)÷2023年3月期売上高×100%
=(1兆8,305億円ー2兆2,090億円)÷2兆2,090億円×100%
=-17.1%

2.営業利益率(2024年3月期)
=営業利益÷売上高×100%
=4,563億円÷1兆8,305億円×100%
=24.9%

3.当期純利益率(2024年3月期)
=親会社株主に帰属する当期純利益÷売上高×100%
=3,640億円÷1兆8,305億円×100%
=19.9%
(億円未満を四捨五入)

過去5年間のROE(自己資本利益率)の推移
過去5年間のROEの推移

ROE(自己資本利益率)は、2022年3月期をピークに下落しています。

2023年3月期と2024年3月期のROEの比較表
ROE上昇の要因

ROEは、前年の32.3%から21.8%へ下落、自己資本の運用効率は悪化しました。
ROE下落の主な要因は、当期純利益が前年度の4,716億円から3,640億円へ減少したことです。
当期純利益の減少要因については、当期純利益の前期比較で説明していますので、そちらを参照してください。

ROEの計算式

ROE(2024年3月期)
={親会社株主に帰属する当期純利益÷(2024年3月期自己資本+2023年3月期自己資本)÷2}×100%
=3,640億円÷{(1兆7,468億円+1兆5,876億円)÷2}×100%
=21.8%
(自己資本=株主資本合計+その他の包括利益累計額合計)
(億円未満を四捨五入)

過去5年間のROA(総資産利益率)の推移
過去5年間のROAの推移

ROA(総資産利益率)も、2022年3月期をピークに下落しています。

2023年3月期と2024年3月期のROAの比較表
ROAの上昇の要因

ROAは、前年の22.4%から15.3%へ下落、資産全体の運用効率は悪化しました。
ROA上昇の主な要因は、当期純利益が前年度の4,716億円から3,640億円へ減少したことです。
当期純利益の減少要因については、当期純利益の前期比較で説明していますので、そちらを参照してください。

ROAの計算式

ROA(2024年3月期)
={親会社株主に帰属する当期純利益÷(2024年3月期資産合計+2023年3月期資産合計)÷2}×100%
=3,640億円÷{(2兆4,565億円+2兆3,116億円)÷2}×100%
=15.3%
(億円未満を四捨五入)

2024年3月期の業績 減収減益

2023年3月期、2024年3月期の売上高を比較したグラフ
2023年3月期、2024年3月期の売上高の比較表
売上高の増加要因

売上高は、前年の2兆2,090億円から17.1%減少して1兆8,305億円になりました。
減収の主な要因は、コロナ禍にPCやスマートフォンなどの最終製品の需要が急拡大したことにより、半導体メーカーによる半導体製造装置向け設備投資が短期間に集中した反動によるものです。

なお、当年度から半導体製造装置の単一セグメントに変更となったため、セグメント別の業績の開示がなくなりました。

2023年3月期、2024年3月期の営業利益を比較したグラフ
2023年3月期、2024年3月期の営業利益の比較表
営業利益の増加要因

営業利益は、前年の6,177億円から26.1%減少して4,563億円となりました。
営業利益が減少した主な要因は、以下のとおりです。
(1)減収に伴う減益
(2)研究開発投資の増加(前期から前年度から116億76百万円増加)

2023年3月期、2024年3月期の当期純利益を比較したグラフ
2023年3月期、2024年3月期の当期利益(親会社の株主に帰属する当期純利益)の比較表
当期純利益の増加要因

当期純利益(親会社の株主に帰属する当期純利益)は、前年の4,716億円から22.8%減少して3,640億円になりました。
特別利益に固定資産売却益106億円(※)が計上されていますが、売上減少、各段階利益の減少の流れを受けて減益となりました。
(※)米国テキサス州オースチン市の土地や建物などの売却

安全性(財政状態)の分析

過去5年間の安全性指標(売上債権回転期間、棚卸資産回転期間、流動比率、株主資本比率)の推移表
過去5年間の安全性指標の推移

売上債権回転期間は、2021年3月期までは約1.6か月でしたが、2022年3月期以降は2.5か月以上に長期化した状態が続いています。
棚卸資産回転期間は、2022年3月期に2.84か月まで改善しましたが、その後、再び長期化、2024年3月期は5カ月になりました。
流動比率は、一般的な目安とされる100%を大きく超える高い水準で推移しています。
自己資本比率は、一般的な目安とされる50%を上回る健全な水準で推移しています。

2023年3月期及び2024年3月期の売上債権回転期間を比較したグラフ
2023年3月期及び2024年3月期の売上債権回転期間の比較表
売上債権の回収見込み

売上債権の回収見込みに関しては、特段問題はないと考えます。
売上高が減少しているものの、売上債権回転期間は前年度の2.53ヶ月、当年度2.57ヶ月と安定しています。

売上債権回転期間の計算式

売上債権回転期間(2024年3月期)
売上債権(受取手形、売掛金及び契約資産)×12カ月÷売上高
=3,914億円×12月÷1兆8,305億円
=2.57カ月
(億円未満を四捨五入)

2023年3月期及び2024年3月期の棚卸資産回転期間を比較したグラフ
2023年3月期及び2024年3月期の棚卸資産回転期間、棚卸資産、売上高、棚卸資産評価損の比較表
棚卸資産の収益性の評価

棚卸資産の収益性評価に関しては、やや注意が必要と見ています。
その理由は、売上高が減少している中で、棚卸資産が増加棚卸資産回転期間も長期化しているためです。
また、棚卸資産評価損が108億円から278億円へ大きく増加しています。
このまま売れば損が発生する、つまり、収益性が低下した棚卸資産が増加していることがわかります。

棚卸資産回転期間の計算式

卸資産回転期間(2024年3月期)
棚卸資産(商品及び製品、仕掛品、原材料及び貯蔵品)×12カ月÷売上高
=7,630億円×12月÷1兆8,305億円
=5.00カ月
(億円未満を四捨五入)

2023年3月期及び2024年3月期の流動比率を比較したグラフ
資金繰りの状況

流動比率は、前年度の276.4%から277.9%へ上昇しました。
一般的な目安とされる100%を大きく超える水準に達しており、資金繰りは良好と考えます。

流動比率の計算式

流動比率(2024年3月期)
=流動資産÷流動負債×100%
=1兆7,005億円÷6,119億円×100%
=277.9%
(億円未満を四捨五入)

2023年3月期及び2024年3月期の自己資本比率を比較したグラフ
財務安定性の状況

財務安定性については、特に問題ないと考えます。
自己資本比率は、前年度68.7%から当年度71.1%へ上昇、一般的な目安とされる50%も上回っているためです。

自己資本比率の計算式

自己資本比率(2024年3月期)
=自己資本÷負債純資産合計×100%
=(株主資本合計+その他の包括利益累計額合計)÷負債純資産合計×100%
=(1兆4,780億円+2,688億円)÷2兆4,565億円×100%
=71.1%
(億円未満を四捨五入)

キャッシュフローの分析

過去5年間の営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー、財務キャッシュフロー、現金及び現金同等物期末残高の推移表
過去5年間のキャッシュフローの推移

営業活動によるキャッシュ・フローはプラスを維持、2021年3月期を底に3期連続で増加しています。

2023年3月期及び2024年3月期の営業活動によるキャッシュ・フロー、営業キャッシュフローマージンを比較したグラフ
2024年3月期の営業活動によるキャッシュ・フローの減少要因の項目別内訳
営業CFの増加要因

営業CFは、前年の4,263億円のプラスから85億円増加して4,347億円になりました。
増加の主な要因は、以下のとおりです。
(1)売上債権及び契約資産の減少額:1,96億円(=当年度848億円ー前年度△248億円)
(2)未収消費税等の減少額:1,015億円(=当年度881億円ー前年度△134億円)

営業CFマージンは、売上減少の中ではありますが、前年度の19.30%から23.75%へ改善しました。

計算式

営業キャッシュフローマージン(2024年3月期)
=営業活動によるキャッシュフロー÷売上高×100%

=4,347億円÷1兆8,305億円×100%
=23.75%
(億円未満を四捨五入)

2023年3月期及び2024年3月期の投資活動によるキャッシュ・フローを比較したグラフ
2024年3月期の投資活動によるキャッシュ・フローの減少要因の項目別内訳
投資CFの増加要因

投資CFは、前年の418億円のマイナスから834億円減少支出の増加)して、1,251億円のマイナスでした。
減少の主な要因は、以下のとおりです。
(1)有形固定資産の取得による支出:△501億円(=当年度△1,170億円ー前年度△669億円)
(2)短期投資の償還による収入:△250億円(=当年度100億円ー前年度350億円)
(3)短期投資の取得による支出:△200億円(=当年度△200億円ー前年度-億円)
(億円未満を四捨五入)

なお、有価証券報告書の記載によれば、当年度の設備投資額はおよそ1,218億円とのことです。
金額がピッタリ一致するわけでありませんが、有価証券報告書の設備の状況の記載から、会社別の設備投資の金額がわかります。

設備投資の概要がわかる有価証券報告書の設備の状況の記載
2023年3月期及び2024年3月期の財務活動によるキャッシュ・フローを比較したグラフ
2024年3月期の財務活動によるキャッシュ・フローの減少要因の項目別内訳
財務CFの増加要因

財務CFは、前年の2,565億円のマイナスから685億円減少(支出増加)して、3,250億円のマイナスでした。
減少の主な要因は、自己株式の取得による支出です(※)。
(※)自己株式の取得による支出:△1,183億円(=当年度△1,200億円ー前年度17億円)
(億円未満を四捨五入)

2023年3月期及び2024年3月期の現金及び現金同等物期末残高を比較したグラフ
現金及び現金同等物の期末残高の増加内訳

現金及び現金同等物の期末残高は、前年度末の4,725億円から109億円減少して4,616億円でした。

現金及び現金同等物の期末残高の増加額
=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー+財務キャッシュフロー+現金及び現金同等物に係る換算差額
=4,347億円-1,251億円-3,250億円+46億円
=-109億円
(億円未満は四捨五入で計算)

東京エレクトロン 2024決算分析まとめ

業績

2024年3月期の業績は、減収減益でした。
コロナ禍による最終製品の需要急増により半導体製造装置への設備投資が短期間に集中したことへの反動です。

財政状態

売上債権の回収期間は、5年間で見ればやや長期化しています。
棚卸資産の収益性も低下、当年度は多額の棚卸資産評価損が計上されました。
資金繰り、財務安定性については問題ありません。

キャッシュフローの状況

営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)はプラス継続増加傾向です。
フリーキャッシュフローもプラスを継続、設備投資は営業CFの範囲内で行われています。

以上、2024年3月期の東京エレクトロンの財務分析を終了させていただきます。
長い文章を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

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