今回は、「無印良品」のブランドで、衣服、生活雑貨、食品の販売を展開する株式会社良品計画(以下、良品計画)の「2024年8月期」の決算を取り上げたいと思います。
はじめに
この記事を読んでわかること
1.良品計画の収益力、即ち、稼ぐ力がどの程度あるのかがわかります。
2.具体的には、売上高や利益が増加したのか、減少したのか、その要因を把握、分析することで、良品計画の収益力がわかります。
1.良品計画の財政状態、即ち、財務の健全性がわかります。
2.売上債権の貸倒れ、棚卸資産の収益性低下、資金繰り、財務安定性の状況を確認します。
3.業績が良くても財政状態に問題があれば、後に大きな損失に繋がる可能性もあるため、財政状態の分析は重要です。
1.業績好調でもキャッシュ・フローを獲得できない場合、財政状態に問題がある可能性があります。
2.特に営業活動によるキャッシュ・フローの分析は重要です。
分析では主に有価証券報告書、決算短信、決算説明資料など一般に公開された情報を用いています。
実際の投資などに際しては、ご自身のご判断でお願いします。
参考:職務経歴・会計に関する専門性
1.上場企業の法定監査を担当(家電小売、化学、鉄道、ガス、住宅建材、銀行など)
2.政令指定都市の包括外部監査を担当
1.金融庁・証券取引等監視委員会(3年)
有価証券報告書の虚偽記載(主に粉飾決算)の刑事事件の調査、課徴金調査、開示検査
2.財務省関東財務局(2年)
有価証券報告書レビュー(※)
(※)有価証券報告書などの開示書類の、政令や会計基準への準拠性の審査
1.公認会計士(Certified Public Accountant)
2.公認不正検査士(Certified Fraud Examiner)
良品計画 決算分析の概要
業績は好調でした。
営業収益、営業利益など各段階利益は過去最高となりました。
ROEも14.9%まで上昇しました。
売上債権の回収見込み、棚卸資産の収益性、資金繰り、財務安定性に問題はなく、財政状態は健全と考えます。
営業活動によるキャッシュフローは増加傾向、過去2年間は、500億円以上の水準で安定しています。
現金及び現金同等物の期末残高も同じく増加傾向、過去2年間は、1,000億円以上の水準を維持しています。
過去5年間の業績推移
業績推移 増収増益傾向
業績は増収増益の傾向が続いており、全般的に良好です。
収益性指標の推移 利益率は安定
2020年8月期は決算変更や新型コロナ感染症問題の影響などから不安定でしたが、その後は回復傾向です。
利益率は、安定しています。
1.売上高成長率(2024年8月期)
=(2024年8月期営業収益ー2023年8月期営業収益)÷2023年8月期営業収益×100%
=(6,617億円ー5,814億円)÷5,814億円×100%
=13.8%
2.営業利益率(2024年8月期)
=営業利益÷営業収益×100%
=561億円÷6,617億円×100%
=8.5%
3.当期純利益率(2024年8月期)
=当期純利益÷営業収益×100%
=416億円÷6,617億円×100%
=6.3%
(億円未満を四捨五入)
過去5年間のROEの推移
ROE(自己資本利益率)は、2020年8月期に一度マイナスとなりました。
しかし、その後は4期連続でプラスを維持、2024年8月期は14.9%まで上昇しました。
ROEの前期比較と上昇要因
ROEは、前年の8.7%から14.9%へ上昇、自己資本の運用効率は向上しました。
ROE上昇の主な要因は、当期純利益が前年度の221億円から416億円へ増加したことです。
当期純利益の増加要因については、当期純利益の前期比較で説明していますので、そちらを参照してください。
ROE(2024年8月期)
={親会社株主に帰属する当期純利益÷(2024年8月期自己資本+2023年8月期自己資本)÷2}×100%
=416億円÷{(2,928億円+2,636億円)÷2}×100%
=14.9%
(自己資本=株主資本合計+その他の包括利益累計額合計)
(億円未満を四捨五入)
過去5年間のROAの推移
ROA(総資産利益率)は、2020年8月期に一度マイナスとなりました。
しかし、その後は4期連続でプラスを維持、2024年8月期は8.6%まで上昇しました。
ROAの前期比較と上昇要因
ROAは、前年の5.2%から8.6%へ上昇、資産全体の運用効率は向上しました。
ROA上昇の主な要因は、当期純利益が前年度の221億円から416億円へ増加したことです。
当期純利益の増加要因については、当期純利益の前期比較で説明していますので、そちらを参照してください。
ROA(2024年8月期)
={親会社株主に帰属する当期純利益÷(2024年8月期資産合計+2023年8月期資産合計)÷2}×100%
=416億円÷{(5,096億円+4,537億円)÷2}×100%
=8.6%
(億円未満を四捨五入)
2024年8月期の業績
営業収益は13.8%の増加
営業収益は、前年の5,814億円から13.8%増加して6,617億円になりました。
増収の主な要因は、新規出店によ店舗数の増加に加え、国内の売上が好調に推移したことです。
営業利益は69.4%の増加
営業利益は、前年の331億円から69.4%増加して561億円となりました。
営業利益が増加した主な要因は、以下のとおりです。
(1)営業収益の増加
(2)国内における価格改定の効果や値下げの抑制
(3)円安の効果
当期純利益は88.5%の増加
当期純利益は、前年の221億円から88.5%増加して416億円になりました。
当期純利益が増加した主な要因は、以下のとおりです。
(1)営業収益、営業利益の増加
(2)固定資産(※)売却益(79億円)
(※)旧本社ビル
セグメント別の業績
過去5年間のセグメント毎の業績推移
国内事業 増収増益
国内事業は増収増益、利益率も上昇しました。
(1)増収の要因は、主に以下の2点です。
①生活雑貨が好調に推移したこと
②SNSや自社アプリMUJIpassport等を通じた継続的なマーケティング活動が集客に寄与したこと
(2)増益の要因は、価格改定や値下げの抑制が、人件費など販売費及び一般管理費の増加を上回ったことです。
セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント営業収益×100%
=397億円÷3,889億円×100%
=10.2%
(億円未満を四捨五入)
東アジア事業 増収増益
東アジア事業も増収増益、利益率も上昇しました。
増収増益の主な要因は以下のとおりです。
(1)中国大陸については、新規出店による店舗網の拡大と経費コントロールが挙げられます。
(2)台湾、香港韓国でも増収増益が見られました。
セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント営業収益×100%
=355億円÷1,946億円×100%
=18.3%
(億円未満を四捨五入)
欧米事業 増収増益
欧米事業も増収増益、利益率も上昇しました。
増収増益の主な要因は、以下のとおりです。
(1)北米については、店舗運営力の向上、経営体制の強化を進めたことです。
(2)欧州については、主に以下の2点です。
①子会社の清算を含む事業再編、不採算店舗の閉鎖、コスト構造の見直し
②円安の効果
セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント営業収益×100%
=55億円÷390億円×100%
=14.1%
(億円未満を四捨五入)
東南アジア・オセアニア事業 増収増益
東南アジア・オセアニア事業も増収増益で、利益率も上昇しました。
出店の強化により経費が増加しましたが、円安効果の方が大きかったため、結果として増収増益となりました。
セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント営業収益×100%
=46億円÷391億円×100%
=11.8%
(億円未満を四捨五入)
安全性(財政状態)の分析
過去5年間の安全性指標の推移
営業債権回転期間は、約0.3か月という非常に短い期間で推移しており、長期化の兆候は見られません。
棚卸資産回転期間は、概ね3か月前後で推移していますが、過去2年間は3カ月未満となっています。
流動比率は、一般的な目安とされる100%を大きく超える高い水準で推移しています。
自己資本比率は、一般的な目安とされる50%を上回る健全な水準で推移しています。
売上債権の回収見込み
売上債権の回収見込みに関しては、特段問題はないと考えます。
売上債権回転期間が前年度の0.25ヶ月から当年度0.30ヶ月へやや長期化していますが、それでも1ヶ月以内と短いためです。
売上債権回転期間(2024年8月期)
=売上債権(受取手形及び売掛金)×12カ月÷営業収益
=168億円×12月÷6,617億円
=0.30カ月
(億円未満を四捨五入)
棚卸資産の収益性
棚卸資産の収益性評価に関しては、問題がないと見ています。
その理由は、棚卸資産回転期間が前年度2.75ヶ月、当年度2.79ヶ月と安定しているためです。
棚卸資産も前年度の1,333億円から1,540億円へ増加していますが、営業収益も増加しているを考慮すると、需要の裏付けがあるものと考えます。
卸資産回転期間(2024年8月期)
=棚卸資産(商品、仕掛品、貯蔵品)×12カ月÷営業収益
=1,540億円×12月÷6,617億円
=2.79カ月
(億円未満を四捨五入)
資金繰り 流動比率が上昇
動比率は、前年度の237.6%から277.2%へ上昇しました。
一般的な目安とされる100%を大きく超える水準に達しており、資金繰りは良好と考えます。
流動比率(2024年8月期)
=流動資産÷流動負債×100%
=3,354億円÷1,210億円×100%
=277.2%
(億円未満を四捨五入)
財務安定性 自己資本比率は安定
財務安定性については、特に問題ないと考えます。
自己資本比率は、前年度58.1%、当年度57.%と安定、一般的な目安とされる50%を上回っているためです。
自己資本比率(2024年8月期)
=自己資本÷負債及び資本合計×100%
=(株主資本合計+その他の包括利益累計額合計)÷負債及び資本合計×100%
=(2,680億円+248億円)÷5,096億円×100%
=57.5%
(億円未満を四捨五入)
キャッシュフローの分析
過去5年間のキャッシュフローの推移
営業活動によるキャッシュフロー
営業CFは、前年の565億円のプラスから20億円増加して585億円になりました。
増加の主な要因は、以下のとおりです。
(1)仕入債務の増加:378億円(=当年度343億円ー前年度△35億円)
(2)税金等調整前当期純利益の増加:261億円(=当年度599億円ー前年度338億円)
営業CFマージンは、前年度の9.7%から8.8%へやや低下しました。
数値的には低下していますが、営業CFと営業収益が共に増加しているため、特に問題ないとえます。
営業キャッシュフローマージン(2024年8月期)
=営業活動によるキャッシュフロー÷営業収益×100%
=585億円÷6,617億円×100%
=8.8%
(億円未満を四捨五入)
投資活動によるキャッシュフロー
投資CFは、前年の221億円のマイナスから55億円減少(支出の増加)して、277億円のマイナスとなりました。
減少の主な要因は、以下のとおりです。
(1)有形固定資産の取得による支出:△60億円(=当年度△226億円ー前年度△166億円)
(2)無形固定資産の取得による支出:△52億円(=当年度△120億円ー前年度△67億円)
(億円未満を四捨五入)
なお、当年度の設備投資額はおよそ346億円(226億円+120億円)と考えられます。
金額がピッタリ一致するわけでありませんが、有価証券報告書の設備の状況の記載から、おおよその設備投資の中身がわかります。
財務活動によるキャッシュフロー
財務CFは、前年の112億円のマイナスから122億円減少(支出増加)して、234億円のマイナスとなりました。
減少の主な要因は、以下のとおりです。
(1)短期借入金の減少:△199億円(=当年度△93億円ー前年度107億円)
(2)長期借入金の返済による支出:△212億円(=当年度△220億円ー前年度7億円)
(億円未満を四捨五入)
現金及び現金同等物期末残高
現金及び現金同等物の期末残高は、前年度末の1,152億円から103億円増加して1,255億円でした。
現金及び現金同等物の期末残高の増加額
=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー+財務キャッシュフロー+現金及び現金同等物に係る換算差額など
=585億円-277億円ー234億円+29億円
=103億円
(億円未満は四捨五入で計算)
良品計画 財務分析まとめ
業績は好調でした。
営業収益、営業利益など各段階利益は過去最高となりました。
ROEも14.9%まで上昇しました。
売上債権の回収見込み、棚卸資産の収益性、資金繰り、財務安定性に問題はなく、財政状態は健全と考えます。
営業活動によるキャッシュフローは増加傾向、過去2年間は、500億円以上の水準で安定しています。
現金及び現金同等物の期末残高も同じく増加傾向、過去2年間は、1,000億円以上の水準を維持しています。
以上、2024年8月期の良品計画の財務分析を終了させていただきます。
長い文章を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。
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