JT 2023決算 増収増益 配当金1,011億円増加

今回は、たばこ事業を中心に、医薬事業、加工食品事業を展開する日本たばこ産業株式会社(以下、JT)を取り上げたいと思います。

JTの決算情報は、以下のURLから入手できますので、必要に応じてご活用いただければと思います。
(IRライブラリ)
有価証券報告書:有価証券報告書等 | JTウェブサイト (jti.co.jp)
決算短信、決算説明会資料:決算短信 | JTウェブサイト (jti.co.jp)

目次

はじめに

この記事を読んでわかることは、以下の3点です。

1.収益力
(1)分析対象となった企業の収益力、即ち、稼ぐ力がどの程度あるのかがわかります。
(2)具体的には、売上高や利益が増加したのか、減少したのか、その要因を把握、分析することで、企業の収益力がわかります。

2.財政状態
(1)分析対象となった企業の財政状態、即ち、財務の健全性がわかります。
(2)具体的には、売上債権の貸倒れ、棚卸資産の収益性低下、資金繰り、財務安定性を分析することで、企業の財政状態が良し悪しがわかります。
(3)業績が良くても財政状態に問題があれば、後に巨額の損失を計上する可能性も考えられるため、財政状態の分析は重要です。

3.キャッシュフローの状況
(1)分析対象となった企業のキャッシュフローの状況がわかります。
(2)業績が好調でも、キャッシュ・フローに反映されない場合、財政状態に問題がある可能性があるため、営業活動によるキャッシュ・フローの分析は特に重要です。

なお、分析では主に有価証券報告書、決算短信、決算説明資料など一般に公開された情報を用いています。
実際の投資などに際しては、ご自身のご判断でお願いします。

分析結果の利用の参考に、主な職務経歴専門性について記載させていただきます。

会計監査

大手監査法人で会計監査を行ってきました。
会計監査では、家電小売、化学、鉄道、ガス、住宅建材、銀行などの法定監査、政令指定都市の包括外部監査など、幅広い業種を担当しました。

官公庁への出向

最初は、金融庁・証券取引等監視委員会で、有価証券報告書の虚偽記載に関する犯則事件の調査、課徴金調査・開示検査を担当しました。
調査又は検査の主な内容は、上場企業の粉飾決算会計上の重大な誤謬の解明です。

次に、財務省関東財務局で、有価証券報告書レビュー(※)を担当しました。
(※)重点テーマ審査、情報等活用審査
上場企業が政令や会計基準を準拠しているかどうかの審査です。

保有資格)

公認会計士Certified Public Accountant
公認不正検査士Certified Fraud Examiner

JT 日本たばこ産業 会社概要

決算分析の結果

決算分析の概要

1.業績
(1)2023年12月期のJTの業績は、増収減益でした。
(2)過去5年の業績でも、全体的には増収増益傾向が継続しています。
(3)2024年12月期は、為替動向税金費用などを考慮し、増収減益を予想しています。

2.収益性
(1)過去5年のROE、ROA、売上高営業利益率、売上高当期利益率は、概ね安定的に推移しています。

3.安全性財政状態
(1)安全性(※)については、直ちに問題になるようなものはないと考えます。
(※)売上債権の回収可能性、棚卸資産の評価、資金繰り、財務安定性

4.キャッシュ・フロー(CF)
(1)営業CFは、プラスを継続、良好と考えます。
(2)フリーCFは、プラスを継続しています。
営業CFの獲得の範囲内で投資活動を行うことが出来ており、好循環であると考えます。
(3)財務CFでは、2023年12月期の配当金の支出前年比1,011億円増加しました。
(4)現金及び現金同等物期末残高は、増加が継続しており、資金の蓄積が進んでいます。

連結業績の推移

売上収益は3期連続の増加です。

2023年12月期は、たばこ事業、医薬事業、加工食品事業の全てセグメントで増収連結全体の売上収益は1,832億円増加しました。

2024年12月期の売上収益は、たばこ事業において為替の影響がプラスに働くことを想定し、3兆160億円6.2%増加)を見込んでいます。

営業利益3期連続の増加です。

0223年12月期の営業利益は、調整項目における買収に伴う無形資産の償却費商標権償却費の減少不動産売却益の増加により1,883億円増益でした。

2024年12月期の営業利益は、為替の影響がマイナスに働くこと、当会計年度の不動産売却益が無くなるため6,480億円3.6%減少を予想しています。

親会社の所有者に帰属する当期利益(以下、当期利益)も3期連続の増加です。

2023年12月期の当期利益は、営業利益の増加金融損益の増加法人所得税費用の減少により395億円増加しました。

2024年12月期当期利益は、営業利益の減少法人所得税費用の増加により、4,550億円5.7%減少を予想しています。

収益性の検討

自己資本利益率(以下、ROE)は、12.0%から13.9%の範囲安定的に推移しています。

また、総資産利益率(以下、ROA)も、5%台後半から7%前半の間で推移しています。
最近2年間は7%台で推移しており、過去5年を通じて上昇傾向です。

(計算式:2023年12月期)
自己資本利益率(ROE)
=親会社の所有者に帰属する当期利益÷親会社の所有者に帰属する持分(期首と期末の平均)×100%
=482,288百万円÷{(3,540,435百万円+3,830,156百万円)/2}×100%
=13.1%


総資産利益率(ROA)
=親会社株主に帰属する当期利益÷資産合計(期首と期末の平均)×100%
=482,288百万円÷{(6,548,078百万円+7,282,097百万円)/2}×100%
=7.0%

JTのROEの変動要因を、デュポンシステムを使って分析したいと思います。
デュポンシステムでは、ROEは、売上高当期利益率、総資本回転率、財務レバレッジ3つに分解できます。

JTの場合、ROEを構成する3つの指標の動きから、以下のような特徴が見られます。
(1)ROEと売上高当期利益率は、概ね同じ方向へ動いています(2023年12月期が例外)。
(2)ROEと総資本回転率は、連動するかたちで動いています。
(3)ROEと財務レバレッジは、概ね反対方向へ動いています(2023年12月期が例外)。

売上高営業利益率は、20%台前半の水準安定的に推移しています。

売上高当期利益率も、14%台後半から17%の間で推移しています。
2023年12月期の売上高当期利益率は17.0%となり、2期連続の上昇でした。

(計算式:2023年12月期)
売上高営業利益率
=営業利益÷売上収益×100%
=672,410百万円÷2,841,077百万円×100%
=23.7%


売上高当期利益率
=親会社の所有者に帰属する当期利益÷売上収益×100%
=482,288百万円÷2,841,077百万円×100%
=17.0%

セグメント別業績

たばこ事業は、JT International S.A.を中核として、世界各国でたばこ製品の製造や販売を行っている「JTの中核事業」です。

売上収益は3期連続増加でしたが、セグメント利益は僅かに減益でした。

増収の主な要因は、総販売数量の増加、フィリピン・ロシア・英国など、多くの市場におけるプライシング効果と考えられます。
一方、減益の主な要因は、サプライチェーンのコストの上昇です。

セグメント利益率(※)は、2022年12月期まで上昇を継続してきましたが、2023年12月期は26.1%と前年度から2%下落しました。

(※)セグメント利益÷セグメント売上高×100%

医薬品広告事業では、医療用医薬品の研究開発、製造、販売を行っています。
主にJTが研究開発を行い、連結子会社の鳥居薬品㈱が製造、販売を行っています。

2023年12月期の売上収益は、3期連続の増加でした。
増収の主な要因は、導出品のライセンス契約による一時金収入皮膚疾患領域・アレルゲン領域の売上の増加です。

セグメント利益は、減益が継続していましたが、2023年12月期は、売上収益の増加の流れを受けて増益に転じました

2023年12月期のセグメント利益率は、増収増益により18.4%へ上昇しました。
また、2019年12月期のセグメント利益率が82.0%と高くなっていますが、医薬品のライセンス譲渡益605億円を計上したことによるものです。

加工食品事業は、冷凍・常温食品、調味料などの製造、販売を行っており、主に連絡子会社のテーブルマーク㈱がに担っています。

2023年12月期の売上収益は、前会計年度と同程度の水準ですが、僅かに減少しました。
主な要因は、冷食・常温事業価格改定の効果や外食需要が回復が見られた一方、ベーカリーを事業譲渡したことによる売上減少でした。

セグメント利益は、冷食・常温事業の価格改定の効果や業務⽤製品の伸長が、原材料費などの高騰の影響を上回り、増益でした。

2023年12月期のセグメント利益率は、増収増益により5.0%へ上昇しました。

安全性(財務状況)

営業債権及びその他の債権の大半は、受取手形と売掛金です(貸倒引当金控除後)。

売上債権等の回収可能性は、営業債権等回転期間が概ね2か月前半の水準で推移、長期化の傾向は見られないため、特に問題ないと考えます。

営業債権等の残高が増加していますが、売上収益の増加に伴う増加と考えられるため、異常性はないと考えます。

(計算式:2023年12月期)
売上債権等回転期間(月)
=売上債権等(=受取手形、売掛金及び契約資産)÷(売上高÷12月)
=535,302百万円÷(2,841,077百万円÷12)
=2.26か月

棚卸資産の主な内訳は、商品及び製品葉たばこです。

棚卸資産残高の増加に伴い棚卸資産回転期間も徐々に長期化2023年12月期は3.52か月でした。

しかし、棚卸資産回転期間の長期化は、増収を背景とする棚卸資産の増加によるものと推測でき、重大な棚卸資産評価損の発生の可能性は低いと考えます。

(計算式:2023年12月期)
棚卸資産回転期間(月)
=棚卸資産÷(売上高÷12月)
=832,611百万円÷(2,841,077百万円÷12)
=3.52か月

過去4年間の流動比率は、150%を超える水準で推移しています。

一般的な目安の100%を大きく超えているため、資金繰りは問題ないと考えます。

(計算式:2023年12月期)
流動比率
=流動資産÷流動負債×100%
=3,259,561百万円÷1,927,276百万円×100%
=169.13%

自己資本比率は、過去5年の全ての会計年度で50%前後で推移しています。

また、最近の2年間の自己資本比率は50%を超えており、一般的な目安の50%を上回っているため、財務安定性に問題はないと考えます。

(計算式:2023年12月期)
自己資本比率(親会社の所有者に帰属する持分比率)
=親会社の所有者に帰属する持分÷負債純資産合計
=3,830,156百万円÷7,282,097百万円×100%
=52.60%

キャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)は、プラスを継続しています。

2022年12月期を除いて5,000億円以上の水準を維持しています。

投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)は、2020年12月期を除きマイナス(支出>収入)で推移しています。

2020年12月期は、投資不動産の売却収入が862億円があったため、投資CF全体でプラスでした。

過去5年間のフリー・キャッシュ・フロー(フリーCF)は、全てプラスです。

営業CFの範囲内製造設備などを含めた投資支出が行われているため、好ましい状況と考えます。

(計算式:2023年12月期)
フリー・キャッシュ・フロー
=営業活動によるキャッシュ・フロー+投資活動によるキャッシュ・フロー
=567,014百万円+△126,129百万円
=440,885百万円

過去5年間の財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CFは、全てマイナス支出>収入)です。

財務CFがマイナスとなる最大の要因は、配当金の支払です。

現金及び現金同等物期末残高増加傾向です。

2023年12月期の現金及び現金同等物期末残高は、前年比1,733億円増加1兆円を超えました

JTの決算分析のまとめ

最後に分析結果を振り返りたいと思います。

1.業績
(1)2023年12月期のJTの業績は、増収減益でした。
(2)過去5年の業績でも、全体的には増収増益傾向が継続しています。
(3)2024年12月期は、為替動向税金費用などを考慮し、増収減益を予想しています。

2.収益性
(1)過去5年のROE、ROA、売上高営業利益率、売上高当期利益率は、概ね安定的に推移しています。

3.安全性財政状態
(1)安全性(※)については、直ちに問題になるようなものはないと考えます。
(※)売上債権の回収可能性、棚卸資産の評価、資金繰り、財務安定性

4.キャッシュ・フロー(CF)
(1)営業CFは、プラスを継続、良好と考えます。
(2)フリーCFは、プラスを継続しています。
営業CFの獲得の範囲内で投資活動を行うことが出来ており、好循環であると考えます。
(3)財務CFでは、2023年12月期の配当金の支出前年比1,011億円増加しました。
(4)現金及び現金同等物期末残高は、増加が継続しており、資金の蓄積が進んでいます。

以上をもちまして、JTの分析を終了とさせていただければと思います。

長文にもかかわらず、ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございました

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