ファーストリテイリング 売上3兆円 営業利益5000億円超え ROE19.4%

今回は、カジュアル衣料品販売の大手の株式会社ファーストリテイリング(以下、ファーストリテイリング)の2024年8月期を取り上げたいと思います。

株式会社ファーストリテイリングの基本情報(会社名、住所、業種など)
目次
収益力

1.分析対象となった企業の収益力、即ち、稼ぐ力がどの程度あるのかがわかります。
2.具体的には、売上高や利益が増加したのか、減少したのか、その要因を把握、分析することで、企業の収益力がわかります。

財政状態

1.会社の財政状態、即ち、財務の健全性がわかります。
2.売上債権の貸倒れ、棚卸資産の収益性低下、資金繰り、財務安定性の状況を確認します。
3.業績が良くても財政状態に問題があれば、後に大きな損失に繋がる可能性もあるため、財政状態の分析は重要です。

キャッシュフローの状況

1.業績好調でもキャッシュ・フローを獲得できない場合、財政状態に問題がある可能性があります。
2.特に営業活動によるキャッシュ・フローの分析は重要です。

留意点

分析には有価証券報告書、決算短信、決算説明資料などの公開情報を使用しています。
実際の投資行動を行う際には、自己の判断で行ってください。

会計監査(大手監査法人出身(約20年)

1.家電小売、化学、鉄道、ガス、住宅建材、銀行などの上場企業の法定監査を担当しました。
2.政令指定都市の包括外部監査を担当しました。

官公庁への出向

1.金融庁・証券取引等監視委員会(3年)
有価証券報告書の虚偽記載(主に粉飾決算)の刑事事件の調査、課徴金調査、開示検査を担当しました。
2.財務省関東財務局(2年)
有価証券報告書レビュー(※)を担当しました。
(※)有価証券報告書などの開示書類の、政令や会計基準への準拠性の審査

保有資格

1.公認会計士Certified Public Accountant
2.公認不正検査士Certified Fraud Examiner

業績

2024年8月期は、売上高が3兆円を超え、営業利益は5,000億円を超える増収増益を達成しました。
セグメント別では、海外ユニクロ事業が売上高と利益の両面で好調を維持し、連結全体の成長を牽引しました。
また、赤字であったグローバルブランド事業黒字へと転換しました。
ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)は19.4%で、過去5年間で2022年8月期の20.4%に次ぐ高い水準を記録しました。

財政状態

売上債権の回収見込み、在庫資産の評価、資金の流動性、財務の安定性に問題はなく、財政状態は健全であると考えます。

キャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュフローは増加、営業活動によるキャッシュフローマージンも上昇と良好です。
現金及び現金同等物期末残高も増加しました。

過去5年間の売上収益、営業利益、当期利益の推移
過去5年間の業績推移

売上収益、営業利益、当期利益、全て増加しています。
業績は好調です。

過去5年間の収益性指標(売上成長率、売上高営業利益率、売上高当期利益率)の推移
過去5年の収益性指標の推移

売上高成長率は、新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年8月期を除き、プラスで推移しています。
営業利益率は4年連続、同じく当期利益率は3年連続、10%以上を維持しています。

過去5年間のROE、その内訳である当期純利益率、総資本回転率、財務レバレッジの推移表
ROEの推移と変動要因

ROE(※)は、2020年8月期の新型コロナウイルス感染症の拡大を除いて、10%台後半以上の高い水準を維持しています。
ファーストリテイリングの場合、ROEが当期利益率に連動して変動する傾向が見られます。
(※)親会社所有者帰属持分当期利益率→自己資本利益率と同じと考えて問題ありません。
ファーストリテイリングの場合、国際会計基準(IFRS)を用いて連結財務諸表を作成しているため、このような呼び方となります。

ROEの計算過程

ROE(2024年8月期)
=親会社の所有者に帰属する当期利益÷{(2024年8月期の親会社の所有者に帰属する持分合計+2023年8月期の親会社の所有者に帰属する持分合計)÷2}×100%
=3,720億円÷{(2兆165億円+1兆8,214億円)÷2}×100%
=19.4%

デュポンシステムに基づくROEの分解式
2023年8月期と2024年8月期の売上収益を比較したグラフ
2023年8月期と2024年8月期のセグメントごとの売上収益の比較表
売上収益の増加要因

売上収益は前年同期比で12.2%増の3兆1,038億円となり、初めて3兆円を突破しました。
セグメント別に見ると、海外ユニクロ事業が19.1%の増収を達成し、連結全体の営業収益の増加に大きく寄与しました。
一方、グローバルブランド事業の収益は減少しました。

2023年8月期と2024年8月期の営業利益を比較したグラフ
2023年8月期と2024年8月期のセグメントごとの営業利益の比較表
営業利益の増加要因

営業利益は、前年同期比で31.4%増の5,009億円に達し、初めて5,000億円の大台を超えました
全てのセグメントで利益が増加し、特に国内ユニクロ事業と海外ユニクロ事業が成長を牽引しました。
さらに、赤字であったグローバルブランド事業も黒字化を達成しました。
営業利益が増加した最大の要因は、やはり、売上収益の増加と言えます。

2023年8月期と2024年8月期の親会社の所有者に帰属する当期利益を比較したグラフ
2024年8月期の当期利益の増加要因
当期利益の増加要因

親会社の所有者に帰属する当期利益は、前年同期比で25.6%増の3,720億円となりました。
増加の主な要因は、営業利益の増加にあります。

2023年8月期と2024年8月期の国内ユニクロ事業の売上収益、営業利益、セグメント利益を比較したグラフ
2023年8月期と2024年8月期の国内ユニクロ事業の売上収益、営業利益(率)、セグメント利益(率)の比較表
国内ユニクロ事業 増収増益の要因

国内ユニクロ事業は増収、大幅増益で、過去最高を達成しました。

増収増益の主な要因は以下の通りです。
1. 売上収益
(1)Eコマースを含む既存店舗の売上が増加したこと
(2)下期に気温が高かったこと
(3)シーズン末まで夏物のコア商品を戦略的に保持し、マーケティングを強化したこと
2. 営業利益
(1)売上動向に応じた発注コントロールにより、為替レートの影響を抑え、原価率を改善したこと
(2)下期の値引き率が改善したこと
(3)売上増加により、人件費比率と広告宣伝費比率が低下し、売上高販管費率が改善したこと

セグメント利益率

セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント売上高×100%
=1,705億円÷9,322億円×100%
=18.3%

2023年8月期と2024年8月期の海外ユニクロ事業の売上収益、営業利益、セグメント利益を比較したグラフ
2023年8月期と2024年8月期の海外ユニクロ事業の売上収益、営業利益(率)、セグメント利益(率)の比較表
海外ユニクロ事業 増収増益の要因

海外ユニクロ事業は、売上・利益いずれも大幅増加で、過去最高を達成しました。

増収増益の主な要因は、以下の通りです。
(1)欧州、北米、東南アジア・インド・オーストラリア地区の業績が大きく伸びたこと
(2)グローバル全体で、LifeWearへの顧客支持が増加したこと

セグメント利益率

セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント売上高×100%
=2,853億円÷1兆7,118億円×100%
=16.7%

2023年8月期と2024年8月期のジーユー事業の売上収益、営業利益、セグメント利益を比較したグラフ
2023年8月期と2024年8月期のジーユー事業の売上収益、営業利益(率)、セグメント利益(率)の比較表
ジーユー事業 増収増益の要因

ジーユー事業は増収、大幅増益でした。

増収増益の主な要因は、以下のとおりです。
(1)ヘビーウェイトスウェット、スウェT、バレルレッグジーンズなど、グローバルのマストレンドを捉えた商品の販売が好調だったこと
(2)インバウンド販売も好調だったこと
(3)原価改善の取り組みにより、粗利益率が改善したこと

セグメント利益率

セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント売上高×100%
=340億円÷3,192億円×100%
=10.6%

2023年8月期と2024年8月期のグローバルブランド事業の売上収益、営業利益、セグメント利益を比較したグラフ
2023年8月期と2024年8月期のグローバルブランド事業の売上収益、営業利益(率)、セグメント利益(率)の比較表
グローバルブランド事業の業績

グローバルブランド事業は、売上減少営業利益は黒字化セグメント利益は赤字減少でした。

業績の状況は、以下のとおりです。
(1)営業利益は、前期に閉店に伴う減損損失が発生したこともあり、黒字に回復しました。
(2)プラステ事業
  事業構造改革により店舗数が減少しましたが、既存店売上高は増収でした。
  営業利益は、値引きに頼らない商売に転換したことで、粗利益率が大幅に改善しました。
②コントワー・デ・コトニエ事業
  事業構造改革により店舗数が減少しました。
③セオリー事業
  販売に苦戦しました。
  アジア事業も消費意欲の低下により販売が苦戦し、現地通貨ベースでは減収となりました。
④コントワー・デ・コトニエ事業
 店舗数の減少により大幅な減収となりました。
 一方で、事業構造改革による経費構造の改善により、赤字幅は縮小しました。

セグメント利益率

セグメント利益率(2024年8月期)
=セグメント利益÷セグメント売上高×100%
=-6.7億円÷1,388億円×100%
=-0.5%

過去5年間の安全性指標(売上債権回転期間、棚卸資産回転期間、流動比率、株主資本比率)の推移表
過去5年間の安全性指標の推移

売上債権回転期間は、2020年8月期を除いて0.2カ月台で安定しており、長期化する傾向はありません

棚卸資産回転期間は、2022年8月期まで2カ月台でしたが、2023年8月期以降1カ月台に短縮、改善しています。

流動比率は、全年度にわたって200%を超える高水準を維持し、資金繰りは良好です。

親会社の所有者に帰属する持分比率は、日本基準でいう自己資本比率に該当します。
2023年8月期以降は50%台を維持し、財務の安定性が高いことを示しています。

2023年8月期と2024年8月期の売上債権回転期間を比較したグラフ
売上債権の回収可能性

売上債権の回収可能性については、問題はないと考えています。
売上債権回転期間が前年度の0.24ヶ月から0.28ヶ月にわずかに延びていますが、依然として1か月以内に回収可能であるためです。

売上債権回転期間の計算式

売上債権回転期間(2024年8月期)
売上債権(売掛金)×12カ月÷売上高
=734億円×12月÷3兆1,038億円
=0.28カ月
(億円未満を四捨五入)

2023年8月期と2024年8月期の棚卸資産回転期間比較したグラフ
棚卸資産の評価

棚卸資産の評価問題はないと考えます。
棚卸資産回転期間が前年度の1.95ヶ月から1.83ヶ月に短縮されたため、物理的劣化や経済的陳腐化による収益性の低下のリスクが減少していると解釈できるからです。

棚卸資産回転期間の計算式

棚卸資産回転期間(2024年8月期)
棚卸資産(商品、原材料及び貯蔵品)×12カ月÷売上高
=4,745億円×12月÷3兆1,038億円
=1.83カ月
(億円未満を四捨五入)

2023年8月期と2024年8月期の流動比率を比較したグラフ
資金繰り

流動比率は、前年度の298.5%から277.3%へわずかに低下しています。
しかし、一般的な目安とされる100%を大きく超える水準で推移しており、資金繰りは良好と考えます。

流動比率の計算式

流動比率(2024年8月期)
=流動資産÷流動負債×100%
=2兆3,633億円÷8,524億円×100%
=277.3%
(億円未満を四捨五入)

2023年8月期と2024年8月期の自己資本比率を比較したグラフ
財務安定性

財務安定性は良好と考えます。
親会社の所有者に帰属する持分比率(日本基準の自己資本比率に相当)は、前年度の55.1%から56.2%へ上昇一般的な目安とされる50%を上回っているからです。

自己資本比率の計算式

自己資本比率(親会社所有者に帰属する持分比率)(2024年8月期)
親会社の所有者に帰属する持分÷負債及び資本合計×100%
=2兆165億円÷3兆5,876億円×100%
=56.2%

過去5年間の営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー、財務キャッシュフロー、現金及び現金同等物期末残高の推移表
過去5年のキャッシュフローの推移

営業活動によるキャッシュフローは、プラスを維持し、さらに増加傾向にあります。

フリーキャッシュフローは、2023年8月期を除いてプラスでした。
2023年8月期にマイナスだったのは、投資活動に伴うキャッシュフローで、投資有価証券の大量の取得による支出があったためです。

財務活動に伴うキャッシュフローは、継続的にマイナスです。
これは主にリース債務の返済によるものです。

現金及び現金同等物の期末残高は、2023年8月期を除いて、1兆円を超える残高を維持しています。

2023年8月期と2024年8月期の営業キャッシュフローと営業キャッシュフローマージンを比較したグラフ
2024年8月期の営業キャッシュフローの増加要因の科目別内訳
営業キャッシュフローの増減要因

営業キャッシュフロー(以下、営業CF)は、前期から1,883億円増加して6,515億円でした。

営業CFが増加した主な要因は、以下の通りです。
1.税引前利益の増加:1,193億円(=5,572億円ー4,379億円)
2.仕入債務の増加:632億円(=473億円ー△159億円)
一方で、棚卸資産の増加により704億円(=△235億円ー469億円)減少しました。

営業キャッシュフローマージン

営業CFマージン(※)も、前期の16.7%から21.0%へ上昇ました。

(計算式:2024年8月期)
営業キャッシュフローマージン
=営業活動によるキャッシュフロー÷売上高×100%
=6,515億円÷3兆1,038億円×100%
=21.0%

2023年8月期と2024年8月期の投資キャッシュフローを比較したグラフ
2024年8月期の投資キャッシュフローの増加要因の科目別内訳
投資キャッシュフローの増減要因

投資キャッシュフロー(以下、投資CF)は、前期から4,922億円増加(支出の減少)して△822億円でした。

投資CFが増加した主な要因は、以下の通りです。
1.定期預金の払出による収入:2,774億円(=4,602億円ー1,829億円)
2.投資の売却及び償還による収入:1,942億円(=4,038億円ー2,097億円)

2023年8月期と2024年8月期の財務キャッシュフローを比較したグラフ
2024年8月期の財務キャッシュフローの増加要因の科目別内訳
財務キャッシュフローの増減要因

財務キャッシュフロー(以下、財務CF)は、前期から956億円増加(支出の減少)して△2,690億円でした。

財務CFが増加した主な要因は、前期は1,300億円あった社債の償還による支出が、今期はなくなったことです。
一方で、配当金の支払額は、前期から312億円増加して1,043億円となりました。

2023年8月期と2024年8月期の現金及び現金同等物期末残高を比較したグラフ
現金及び現金同等物期末残高の増減要因

現金及び現金同等物期末残高は、前期から2,903億円増加して、1兆1,936億円でした。

増加額の計算過程は以下の通りです。
現金及び現金同等物期末残高の増加額2,903億円
=営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー+財務キャッシュフロー+現金及び現金同等物換算差額
=6,515億円-822億円-2,690億円ー100億円
(億円未満は四捨五入)

業績

2024年8月期は、売上高が3兆円を超え、営業利益は5,000億円を超える増収増益を達成しました。
セグメント別では、海外ユニクロ事業が売上高と利益の両面で好調を維持し、連結全体の成長を牽引しました。
また、赤字であったグローバルブランド事業黒字へと転換しました。
ROE(親会社所有者帰属持分当期利益率)は19.4%で、過去5年間で2022年8月期の20.4%に次ぐ高い水準を記録しました。

財政状態

売上債権の回収見込み、在庫資産の評価、資金の流動性、財務の安定性に問題はなく、財政状態は健全と考えます。

キャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュフローは増加、営業活動によるキャッシュフローマージンも上昇と良好です。
現金及び現金同等物期末残高も増加しました。

これにて、2024年8月期のファーストリテイリングの財務諸表分析を終了させていただきます。
長い文章を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。

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